相続放棄後も不動産の管理義務は残る?いつまで管理すべきかを解説!
不動産の相続放棄をお考えの方の中には、相続放棄後も不動産の管理義務は残るのかという疑問を持っている方も多いことでしょう。
結論から言うと、相続放棄後も不動産の管理義務は残ります。それでは、一体いつまで管理義務は残るのでしょうか?
この記事では、相続放棄後の不動産はいつまで管理すべきか、さらには管理義務を怠った場合に生じるリスクについても解説していきます。
- 相続放棄後に別の相続人が相続する場合、いつまで相続財産の管理義務は残るか
- 相続人全員が相続放棄した場合、いつまで相続財産の管理義務は残るか
- 相続放棄後の相続財産管理を怠ると生じるリスク
目次
相続放棄後いつまで管理義務が生じる?ケース別に解説!
相続放棄後、いつまで不動産の管理義務が生じるかはケースによって異なります。
ここでは、2つのケースについて見ていきましょう。
他の共同相続人が相続する場合、その相続人が管理を開始するまで
まずは、自分が相続放棄をした後に他の共同相続人が相続する場合について見ていきましょう。
民法第918条では、以下のように定められています。
(相続財産の管理)
第九百十八条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
この条文を見る限り、相続放棄をすると相続財産の管理義務は発生しないように思えます。しかし、実際にはそうではありません。
民法第940条には、以下のような記述があります。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
つまり、相続放棄をしても、他の相続人が相続財産の管理を始められる状態になるまではその財産の管理をし続けなければいけないということです。
相続が発生したことや相続人が相続放棄したことは、公的機関から共同相続人に通知されません。したがって、自分で相続放棄したことを次順位の相続人に知らせなければいけないのです。そうでなければ、その人たちは自分が相続人だということすら知ることができず、当然相続財産の管理もおこないません。そういった管理人不在の空白期間は、相続放棄した者がしっかりと財産管理をしなければいけないということを覚えておきましょう。
ただし、2023年4月から施行された改正民法により上記の「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、」という一文が追加されました。
これにより、「現に占有している」実態がなかい相続人に管理責任が移ることはなくなりました。
相続人全員が相続放棄した場合、相続財産管理人が管理を開始するまで
続いて、自分を含めたすべての相続人が相続放棄をし、相続財産の管理を引き継ぐ者がいない場合について見ていきましょう。
この場合、前述した民法第940条の規定に則ると、相続放棄した者がいつまでも相続財産の管理をし続けなければならないということになってしまいます。そこで、民法第951条と第952条にて以下のように定められています。
(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
つまり、相続放棄によって相続人がいなくなってしまう場合には、利害関係人(=相続放棄した者)の請求によって、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任してくれるということです。そして、相続財産管理人が選任され、その者が相続財産の管理を開始すれば、相続放棄した者は晴れて財産管理から解放されることになります。
逆に言うと、相続財産管理人が財産の管理を開始するまでは、相続放棄した者が管理し続けなければなりません。また、家庭裁判所に申し立てしなければ相続財産管理人の選任もおこなわれませんので、必ず忘れずに申し立てするようにしましょう。
さらに、相続財産管理人の選任にはある程度の費用がかかるということにも注意が必要です。選任の申し立てを弁護士や司法書士に依頼する場合、弁護士であれば20万円~、司法書士であれば10万円~20万円の費用がかかります。さらに、弁護士や司法書士が相続財産管理人に選任された場合、報酬として月額1万円~5万円支払うことになります。
こういったことも踏まえて、相続放棄は慎重に検討しましょう。
相続放棄後の管理義務を怠ると生じるリスク
ここまで、相続放棄後はいつまで相続財産の管理義務が生じるのかについて解説してきました。
それでは、この管理義務を怠ると一体どういったリスクがあるのでしょうか?大きく2つのリスクについて見ていきましょう。
損害賠償請求をされる可能性がある
相続放棄後の管理義務を怠ると、多方面から損害賠償請求をされる可能性があります。
それでは、考えうるケースごとに詳細に解説していきましょう。
不動産の毀損によって債権の回収ができない場合
相続放棄後の管理義務を怠ったことで不動産を毀損してしまった場合、債権者が債権を回収できずに損害賠償請求をしてくる可能性が考えられます。
被相続人が相続財産である不動産を住宅ローンを利用して購入していた場合を例に考えてみましょう。
住宅ローンは、これから購入する物件を担保にして(=「抵当権」を設定して)融資を受けるというものです。なお、抵当権については、民法第369条にて以下のように定められています。
(抵当権の内容)
第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
抵当権を設定して融資を受けた場合、債務者は物件を自分の元にとどめて使用できる代わりに、担保価値を維持・保証しなければいけません。
ところが、相続放棄をした者が相続放棄後の管理義務を怠った結果、物件の担保価値を毀損してしまったとします。この場合、「抵当権侵害」をおこなったとして債権者から損害賠償請求を受ける可能性があります。
したがって、相続不動産の管理を怠って空き家と化した結果、第三者に占有されてしまったり倒壊や全焼させてしまったりすることがないよう、しっかりと管理する必要があります。
また、民法第87条では以下のように定められています。
(主物及び従物)
第八十七条 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
2 従物は、主物の処分に従う。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
つまり、庭木や庭石などの「従物」に関しても、抵当権を設定した不動産(=「主物」」と同様の扱いを受けるため、これらもしっかりと管理しなければいけません。
相続放棄はそもそもその財産を管理する意志がない者がおこなうため、これらのことに無頓着になりがちです。しかし、管理義務が発生するのでこういったことをしっかりと理解する必要があります。
管理を怠った結果、第三者に被害をもたらしてしまった場合
管理を怠った結果、近隣住民や通行人などの第三者に被害をもたらしてしまった場合も、損害賠償請求を受ける可能性があります。
民法第717条には以下のような記述があります。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
ここで言う「占有者」とは、マンションの管理会社などを指します。つまり、管理会社などの占有者が十分に注意を払っていたが第三者に被害をもたらしてしまった場合は、その不動産の所有者が賠償責任を負うことになります。
また、前述の民法第940条に「相続の放棄をした者は、(中略)自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」とあるように、相続放棄した者も次の管理人が管理を開始するまでは、不動産の「所有者」と同様の注意をもって管理しなければいけません。
例えば、マンションの修繕を怠った結果、雨漏りが発生して他の住民に被害をもたらしてしまった場合や、危険なブロック塀を修繕しなかった結果、倒壊して通行人に怪我をさせてしまった場合などが想定されます。
その原因が建物の老朽化だとしても、管理義務を怠ったとみなされてしまうので、しっかりと管理し続けることが重要です。また、家屋だけでなく庭木などもしっかりと管理しなければいけません。
次順位の相続人に相続放棄を知らせなかった場合
相続放棄後に次順位の相続人に相続放棄を知らせなかった場合にも、その相続人から損害賠償請求を受ける可能性があります。
相続放棄をしても、そのことは裁判所などの公的機関から共同相続人に通知されることはありません。つまり、相続放棄した者は、自ら次順位の相続人にその旨を知らせなければならないのです。そうでないと、次順位の相続人は自分に相続権があるということを認知することができません。その結果、相続完了までに時間がかかってしまうことがあります。建物の資産価値は時間の経過とともに減少してしまうため、相続財産の価値が毀損されたとして損害賠償請求を受ける可能性があるのです。
そのため、相続放棄をする際には次順位の相続人のことも考えて慎重に検討する必要があります。
相続放棄が無効になる可能性がある
また、相続放棄後に相続財産を売却処分してしまった場合には、相続放棄自体が無効になってしまうので注意が必要です。
ここで、民法第940条の相続放棄後の管理義務に関する記述を改めて確認してみましょう。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
ここには財産の売却処分に関する記述はありません。しかし、「売却処分も管理のうちに含まれる」という勝手な解釈で財産の処分をおこなってしまうと痛い目を見てしまうので注意が必要です。
民法第920条・第921条には以下のような記述があります。
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
引用: 民法 | e-Gov法令検索
第921条1項によると、相続財産を処分したとき相続人は「単純承認」をしたものとみなすとあります。さらに第920条では「単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する」とあるため、勝手に財産の処分をしてしまうと相続放棄が無効になってしまうということになります。
以上のことも考慮し、相続放棄は慎重に判断しましょう。
まとめ
ここまで、相続放棄後の相続財産の管理義務と怠った場合のリスクについて解説してきました。
相続放棄をしても管理義務は残る上に、怠ってしまうと大きなリスクになってしまいます。そこで、相続財産は相続した後に売却するというのも一つの手です。
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