行政代執行とは?費用徴収、実行までの流れなどをわかりやすく解説
空家等対策の推進に関する特別措置法(空家等対策特別措置法)が2015年5月に施行され、全国の自治体に、空き家への立入調査や指導、勧告、撤去命令、行政代執行などの権限が与えられました。
依然、空き家は増加傾向ですが、自治体は空き家の状況に応じてさまざまな権限を行使し、計画的に空き家問題に取り組んでいます。
なかでも特に大きな権限を委譲されている「行政代執行」では、空き家の所有者に代わって、敷地に放置されたゴミを撤去したり、倒壊しそうな家屋を解体したりすることができるのです。費用は自治体が立て替え、後日、空き家所有者に請求されます。
本記事では、行政代執行とは何か、費用徴収、実行までの流れなどをわかりやすく解説していきます。
- 行政代執行とは何か
- 行政代執行の流れ
- 行政代執行の費用は誰が払うか
- 行政代執行を避ける方法
目次
行政代執行とは?
行政代執行とは、所有者に代わって行政が適正管理に向けた取り組みを実行することです。2015年、空家等対策特別措置法の施行によって全国の自治体で可能となりました。
行政代執行法第二条には、行政代執行を以下のように規定しています。
【行政代執行法第二条】
法律により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
本来は空き家の所有者が自身の責任において対処すべき問題を自治体が代わりに行う、というイメージです。
以下が行政代執行の一例です。
- 道路に越境した木や枝を伐採する
- 敷地に放置されたゴミを撤去する
- 倒壊の恐れがある家屋を解体する
ただし、自治体が行政代執行を突然実行するわけではありません。空き家の所有者に何度も改善を要求しているにもかかわらず対応してもらえず、かつ、緊急性が高いと判断された場合に実行されます。
行政代執行の実態
空家等対策特別措置法が施行された2015年以降、実際に行政代執行は行われているのでしょうか。
国土交通省が公開している最新のデータを見ていきましょう。
平成27年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
助言・指導 | 2,440 (125) | 3,288 (208) | 4,252 (274) | 4,690 (326) | 5,587 (402) | 6,122 (406) | 6,081 (422) | 4,961 (418) | 37,421 (808) |
勧告 | 60 (24) | 215 (73) | 303 (92) | 383 (107) | 442 (136) | 473 (145) | 564 (157) | 638 (159) | 3,078 (417) |
命令 | 6 (5) | 19 (16) | 37 (27) | 42 (20) | 40 (32) | 65 (46) | 84 (60) | 89 (57) | 382 (180) |
行政代執行 | 2 (2) | 10 (10) | 12 (12) | 18 (14) | 28 (25) | 24 (22) | 47 (43) | 39 (36) | 180 (129) |
略式代執行 | 8 (8) | 28 (24) | 40 (33) | 51 (46) | 67 (55) | 67 (55) | 83 (73) | 71 (54) | 415 (228) |
合計 | 2,516 (129) | 3,560 (222) | 4,644 (300) | 5,184 (360) | 6,164 (445) | 6,751 (454) | 6,859 (490) | 5,798 (473) | 41,476 (853) |
(筆者作成 ※()内は市区町村数)
引用: 国土交通省|改正空家法 施行に向けた空き家対策の現在地~空き家対策に取り組む全国の市区町村の状況について(令和5年3月31日時点調査)~
行政代執行を含めて、すべての措置の実績は増加傾向にあることがわかります。
略式代執行との違いは?
行政代執行と似た言葉に、略式代執行があります。
略式代執行とは、空き家の所有者が特定できない場合の措置のことです。空き家等の改善要求をする相手(所有者)がいないため、行政代執行よりも対処が円滑に実行できます。
行政代執行の費用は強制徴収?誰が支払う?
行政代執行に要した費用は、自治体がひとまず立て替えます。その後、空き家の所有者に請求されます。
行政代執行が決まってしまうと、工事費の安い業者を自分で選ぶことができません。そのため、費用が高くなる可能性があります。処分内容にもよりますが、数十万円から数千万円になります。
万が一、支払わない場合はどうなるのでしょうか。支払いに応じなければ、所有者の不動産や自動車など財産が差し押さえられ、競売にかけられてしまいます。最終的には、空き家の所有者に強制徴収される仕組みとなっているわけです。なお、税金債務と同様に扱われるので、自己破産しても免責されることはありません。
ちなみに、略式代執行にかかった費用は財産管理制度で補填され、補填しきれなかった費用は税金で負担されます。
行政代執行の費用が払えない場合に起こることはこちらに詳しく解説しています。
行政代執行が実行される具体的な流れとは?
行政代執行はいきなり実施されるわけではありません。下図に示している通り、管理不全空き家等として状況改善に向けた対応を求められたあと、それでも改善されなければ特定空き家として判定されます。
行政代執行が実行されるまでには一定の手続が必要です。行政代執行法によって定められている具体的な流れは以下です。
- ①戒告 … 義務の履行期限を明示して文書で通知する(3条1項)
- ②代執行令書 … 代執行の実行時期、執行の責任者名や費用概算を通知する(3条2項)
- ③代執行 … 執行責任者である証票を示し、代執行を実行する(4条)
- ④費用納付命令 … 代執行に要した費用の徴収額や納期日を文書で通知する(5条)
- ⑤強制徴収 … 代執行に要した費用を徴収する(6条)
上記のとおり、自治体はまず空き家の所有者に対して適切な管理を行うよう催告し、従わない場合に、行政代執行の権限を行使すると定められています。
以下で詳しく解説します。
特定空き家に指定される
まず近隣住民からの苦情などにより、市区町村が建物の状況を調査します。特定空き家に指定されるのは、劣化がひどく進んでいる、敷地内にゴミが散乱しているような物件です。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
なお、管理不全空き家とは「そのまま放置すれば当該状態の特定空家等に該当することとなるおそれのある状態」で、特定空き家の手前の状態とされています。
人が住んでいない場合でも、人が住める状態であったり、適切に建物が維持管理されていれば、特定空き家に指定されることはほとんどありません。
行政から助言・指導・勧告・命令を受ける
空き家法に基づき、行政から助言・指導が入ります。それでも一向に改善されない場合は、指導よりも効力の強い勧告・命令の流れとなります。勧告が行われると、居住用に適用されている固定資産税の減税がなくなり、固定資産税が高くなるので覚えておきましょう。
戒告書・代執行令書による通知
勧告・命令の流れでも状況が変わらなかった場合、行政代執行が可能となります。戒告書・代執行令書による通知を経て、代執行を実施する手続きに入ります。
行政代執行の実施
建物を取り壊す際、行政が業者の選定から契約まで全て行います。そして代執行にかかった費用が確定すると、建物の所有者に請求します。
空き家で行政代執行を回避する方法とは?
行政代執行は空き家の所有者にとってメリットはありません。どのようにすれば回避できるのでしょうか。方法は大きく4つあるため、一つずつ解説していきます。
1.自分で解体する
空き家を活用する予定がないのであれば、放置せずに自分で解体し更地にしましょう。
解体後は、駐車場を経営する、新たな建物を建築する、または売却するなど、自身の状況や近隣のニーズに合わせて活用することで無駄なコストをかけずにすみます。
自分で解体業者を選定すれば、行政代執行に比べて解体費用を抑えることも可能です。
空き家を解体しようか迷っている方は、こちらの記事も是非ご覧ください。
2.指導等に従う
行政代執行の戒告がなされる前に、自治体から、助言・指導、勧告や命令など行政指導が通達されます。
空き家の所有者として、行政指導等に従い、空き家を適切に管理しましょう。物理的に管理が難しければ、近隣住民や地域への悪影響を及ぼさないように管理会社へ空き家管理を委託するという手段もあります。
3.特定空き家にならない
そもそも特定空き家に指定されないということも重要です。
特定空き家に指定される要件には、以下のようなものがあります。
・倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態の空き家
・著しく衛生上有害となるおそれのある状態の空き家
・適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態の空き家
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態の空き家
空き家を放置せずに、定期的なメンテナンスを行うなど適切に管理すれば、空き家は維持できます。
4.空き家と敷地をセットで売却する
空き家として管理することが困難であれば、空き家と敷地をセットで売却するという手段もあります。
立地や空き家の状況にもよりますが、建物自体に価値がなくても土地を高く評価される場合もあります。空き家として所有し続けると、固定資産税の支払いはもちろん、定期的なメンテナンスもしなければならないため、負担が大きいと感じる場合は売却も視野に入れましょう。
空き家パスは、全国で空き家を買い取っている空き家専門の買取業者です。
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空き家の管理にお困りの際は、ご相談や査定は無料ですのでお気軽にご連絡ください。
まとめ
空き家を適切に管理できない場合、行政代執行によって空き家を取り壊されてしまう可能性があります。
使い道がなく管理が難しい空き家や、相続などをきっかけに手に入れた空き家であれば、売却する、自身で解体または定期的に管理するなど、何かしらの対策を講じましょう。
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この記事の監修者 高祖広季
株式会社ウィントランス 代表取締役 高祖広季
空き家パスを運営している株式会社ウィントランスの代表です。日本の空き家問題を解決するため空き家専門の不動産事業を展開中。「空き家パス」と「空家ベース」というサービスを運営しています。これまで500件以上の不動産の売買取引に携わってきました。空き家でお困りの方の力になりたいと思っています。